「和の國ブログ」をご覧のみなさま、こんにちは。来年1月2日から6日に開催予定の「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子でございます。
この「熊本ゆかり便り」は月に一度レポートさせていただいていますが、7月4日に岡村美和さんの帯をステキに着こなされたMさまをご紹介させていただいてから一ヶ月。梅雨から夏休みに入り、ロンドンオリンピックが開催されるなど、一ヶ月の間にいろいろありました。

我らが熊本といえば大雨による白川氾濫など、大きな災害に見舞われことが一番の痛手でした。どれほど多くの方が不安なひとときを過ごし、大切な方を失った悲しみに沈んだことでしょう。ここで改めて亡くなられた方のご冥福をお祈りし、また被災された方の心に寄り添いたいと思います。


このように自然の脅威は計り知れないものがありますが、その反面、多くの恵みを与えてくれることを私たちは知っています。さまざまな祈りの心を託して、今月は熊本の自然から得た美しくも神秘的な色相の帯あげをご紹介いたします。
そうです、5月3日の和の國ブログで予告させていただきました「熊本ゆかりオリジナル帯あげ」が染め上がったのです!市販ではなかなか見かけない草木染の帯あげ、しかも桜染。魅力はそれだけではありません。「熊本ゆかり」のテーマにのっとり、染料の桜は、熊本の桜です。豊かな自然を誇る山都地方の桜です。

桜といえば日本を代表する花。白にほのかな紅を含ませた桜の花びらの色は、桜色といって私たちの大好きな色であります。

しかし、染料としての桜は花びらではなく、樹皮や枝を煮出して得ます。その樹皮や枝の、どんなものでもいいかといえばそうではなくて、開花前、まだ固くつぼみを閉じている時期のものが最適です。つまり、樹の内部で美しい花を咲かせる準備期間中の、その大事な時期です。桜の開花前に命の色をいただく神秘については、私が小学生の頃、国語の教科書に掲載されていましたので、ご存知の方も多いことと思います。

そして「桜切るバカ、梅切らぬバカ」ということわざがありますとおり、桜の剪定はそう多く行われることではありません。そうなると、ベストの時期に桜の樹皮や枝を手に入れるのはなかなかに難しいこと。
熊本を代表する染織家で、今回この帯あげを染めてくださった堀絹子先生も、桜は容易に手に入らないとおっしゃいます。こういうときはやはり人の縁とでもいいますか、堀さんの染織に理解がある人を介して、桜をいただく機会を得たそうです。


その桜で「帯あげを染める」という報せを聞き、早速取材してまいりました。


桜の枝

染料となる桜の枝です。



桜版甕のぞき

煮出した染料に、帯揚げを入れて染めて行きますが、
写真は白生地を初めて浸して持ち上げたところです。
まさに、「桜版甕(かめ)のぞき」のようです。




生地は和の國でいつも取り扱っている最高級の帯あげ地。下ごしらえとして灰汁で2、30分ほど煮た後に色を染める作業に入ります。
煮出して濾した染料に下ごしらえをして湿った帯あげを入れて煮染めします。その後、染めを定着させるための作業「媒染」をするため、みょうばんを水に溶かした媒染液に浸します。
この工程を繰り返すことで色は濃く染まってゆき、作家の求める色が得られたときに作業が終了します。帯あげひとつにも、こんなに手が込んでいるものかと思いを新たにします。

染め上げられた帯あげは5点。媒染の仕方で2種の色相があります。ひとつは赤みがあり、もう片方は黄みを多く含んだ色合いになっています。明るい茶色――樺色の色相です。一見して地味に思える樺色ですが、手にとって眺めていると、なんとはなしに華やぎが見え隠れします。

これが桜の花の、命の色というのでしょう。芯に秘めた桜色の輝き……

もし自分が使うならどちらがいいかな、と役得さながらに吟味するのですが、いずれ劣らぬ魅力があり、私だったらどちらを選ぶか決められませんでした。こんなにステキなものを装いの脇役として帯あげに使うのはもったいないくらいですが、素晴らしい脇役あってこそ引き立つ全身の美しさ。草木染の帯あげは、5月にお話しましたとおり、自らの美しさを宿しながらも、けっして主張しすぎず、きものと帯をつなぐ奥ゆかしい役割を演じてくれます。(むむ、自分自身もそうあらねば、とつい思ってしまいます)

この帯あげは、現在和の國にてお預かりし、次回の「熊本ゆかりの染織作家展」にて初公開いたします。
価格は未定ですが特別価格で1万円前後、限定5枚です。
この美しさを皆様で共感できるその日を楽しみにしております!

最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
             熊本ゆかりの染織作家展 実行委員 安達絵里子