和の國ブログをご覧の皆さま、こんにちは。「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子です。早いもので、「熊本ゆかり便り」を始めて丸一年がたちました。
来年のお正月に開催予定の「第4回 熊本ゆかりの染織作家展」まで、また毎月この時期にレポートを続けてまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、今年前半は、先日行われました「第3回熊本ゆかりの染織作家展」に出品されました作品をご紹介してまいりたいと思います。
お越しになれなかった方はここでご鑑賞いただき、またすでにご覧になっていらっしゃる方には、新たな「和の國コーディネート」をご覧に入れますので、お付き合いくださいますようお願いいたします。

それでは早速、初回を飾りますのが「進化する織のアーティスト」とお呼びしている
吉田美保子さんです。パチパチパチ!

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写真は昨年から吉田美保子さんが挑戦し続けている八寸帯です。
タイトルは「ブラック・パープル」。
ご存知のとおり、九寸帯は両端に縫い代をとって仕立てますが、八寸帯の両端(耳)はそのまま仕立てますので、より簡便な締め心地であるだけでなく、「織の味」といったものを感じられるのも魅力のひとつです。
実際に吉田美保子さんはこれまで、かっちりした印象のお太鼓姿になる九寸帯を織ってこられましたが、八寸帯を織るようになったきっかけは、耳部分を形成する緯糸の折り返しの美を好まれるきもの通の方から製作を頼まれたことだったそうです。

本作を詳細に見つめてみましょう。
セリシン(絹糸の表面に付いている膠質)を抜いた柔らかい絹糸と、あえてセリシンを残した張りがある固い絹糸を交ぜて織ったそうで、経糸と緯糸が交差する織り目に手織りならではの味わいがあり、心ひかれます。無作為のように見えて計算された地風は「締めやすさ」バツグンです。

そして色は、タイトル通り、黒と紫のグラデーション。
しゅっしゅっと竪に引かれた線が、全体に横段を構成しています。
これは現代アートの世界で注目されている「すり込み絣」という技法によるもので、伝統的工法が機に掛ける前の糸染めの段階で絣糸を染めるのに対し、「すり込み絣」は機に経糸を掛けてから色をすり込んでいくという手法です。染め味に違いがありますが、「すり込み絣」が目指すのは、いかにアートの世界を染織のなかで描くかということ。

この作品をご覧になって、どんなことをお感じになるでしょうか。
沈黙と沈鬱、そして最高の洗練を語る黒と、穏やかながらも高貴で孤高の気品を語る紫が織りなす朦朧とした混沌……

きゃー、カッコいい!
こう思った方は、きっと美意識の高いオシャレな方でしょう。

私は、この帯に一瞬たじろぎました。
なんと哲学的で、思索的なのか。
この帯は「何かを語っている」。……そんな思いにとらわれたのです。

これが現代アートというものなのでしょう。
抽象画を見る思いです。
一見して色の爆発に見える抽象画に、心を旅させてみると、思いもかけない境地に身を置いていることに気づくことがあります。

この帯は、一瞬にしてツボをとらえ「きゃー、カッコいい!」と思った方には、着る人の感性と美しさを引き立て、きもの姿にさらなる洗練を加えることでしょう。

私のように、思索に誘われた人は、新たな「きものの愉しみ」を発見することでしょう。
たとえば、春を迎えて桜の帯に身を包みながら幸せな思いになるのも、きもののおしゃれです。
しかし、アート感覚の帯で自身の美意識を鍛え、きものと色のコーディネーションに心を砕き、我が身の上で「思索を体感する」……これも、きもののおしゃれであることを改めて気づかせてくれる作品です。

こんな着方はおしゃれの先端を行く、現代アートの楽しみなのでしょう。
でも、この感覚には、どこか懐かしさがあります。
平安時代に、色を重ねることによって季節の花を思い描いて「襲色目」作り出した、平安貴族たちは、こんな当時の「現代アート」の思索にふけったすえに、あの「襲色目」を創造してきたのでしょう。

古くて新しい、おしゃれの創造を楽しめる無限の帯。
私はこの「ブラック・パープル」をひとことで説明するのに、こう表現したいと思います。

アート感覚を求めて、吉田さんはタイトルに英語やカタカナを多用されます。実際に「きもの姿で完成させるのは着る方自身。想像力を広げてお召しになってほしいと思っています。私はそのための素材作りをしているつもりです」と吉田さんは語ります。

ううむ。この吉田さんの「挑発」、いえ「創造」をどう受け止めましょうか。
受けて立つのは「和の國」。
和の國好みのコーディネートをご覧に入れましょう。

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帯をとくと眺め、おかみさんが真っ先に取り出されたのは、和の國でもお馴染みの菊池洋守さんの八丈織です。
ログウッドやカテキューなどの草木染料を用いて深々とした墨色に染め、立涌市松文を織り表した無地の織物です。

まさに上質と洗練を知る大人の取り合わせ。ブラックの共通項で静かに調和しつつも、帯のところどころに潜ませた赤みのある紫が個性を語ります。そうして白く抜けた部分が着姿に透明感と躍動感を与えてくれるようです。さすが……。

帯締めは、きりっと引き締め効果のあるオフホワイトを選びました。
帯あげは、今回初企画の、熊本の桜で染めた「熊本ゆかり」帯あげです。

吉田美保子作八寸帯「ブラック・パープル」¥198.000_(仕立て代・消費税込)
菊池洋守作八丈織きもの ¥698.000_(仕立て代・消費税込)
帯締め ¥15.000_(消費税込)
帯あげ ¥9.800_(消費税込)

ご希望の方は、どうぞ和の國までお問い合わせください。
あらかじめご連絡をいただければ、実物をご覧になれます。
吉田さんによれば、万一タッチの差で売れてしまった場合でも、ご注文をお受けいたします、とのことです。

それでは、また来月レポートいたします。
長文にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
安達絵里子